「日経おとなのOFF」 2006/05月号
ワンテーマ エッセイ:どうしても捨てられないもの
旅のお供・マイバッグ

 私は「もの」へのこだわりは、どちらかというと、「無い」タイプだ。豪華な外車をみても「見栄っ張りな奴」、車をステイタスなんて思っている奴は「中身は空っぽなのさ」とか、何百万円もする時計を自慢する奴は「時計が目だって人が見劣りすらぁ」などと嘯いている。車は走ればいいし、時計は正確に動けばいい、家も普通に暮らせればいい、どうしてもここでなければいけない、などとも思わないのだ。
 でも、ただ一つだけある。テーマは「もの」だから、この際「人」はこの範疇にいれないことを断っておかねばならぬ。どうしても捨てられない「もの」は仕事や旅行に使うバックだ。これはプラダのバッグで高価なものを好まない私の唯一の「高いもの」である。もう、15年以上は使い続けている。どこへ行くにも黒の肩からかける「プラダ」が一緒だ。スポーツアナウンサーという仕事柄、沢山の資料やパソコンを持ち歩く。このバッグの中は七つに分かれていて資料を分類しやすいこと、何よりも丈夫なこと、しかも「プラダ」だからみっともないとは思われまいと勝手に決め付けているのが愛用する根拠だ。放送のスタッフからは、プラダを重そうに右肩下がりにかけて歩いてくる姿から「シマさんのトレードマーク」と見られている。
 しかし、さすがにくたびれててきた。プラダの特徴である布の部分は変わらないが周囲の革は剥げて疵だらけになっている。「もう、みっともないからいい加減に買い換えて」と家内はいう。私の仕事柄このバッグは世界中を共に旅している。この1月、ピンチがあった。全豪オープンテニスの中継でメルボルンに行ったとき、あまりに資料が重かったのか留め金を繋ぐ部分が壊れてしまった。それでも私はふたが開いたまま、テニスコートと放送席を行き来した。帰国して家内に「頼む、何とか修理してくれ」あきれ顔の家内の奮闘のかいあって、バッグは使えるようになった。先日もサンジェゴに一緒に行ったし、来月はパリにお供してもらう。
 普段は、愛犬「タイガー」の「まくら」役を務める。ソファーの上においておくと「タイガー」が顔をのせてまくらがわりにする。時々、よだれや鼻汁が垂れている。こうなったら、もう絶対に捨てられない「マイ・バッグ」なのだ



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