ゴルフダイジェスト・「2002年7月25日号」掲載記事
ゴルフバトラーズ テーマ28 日本のゴルフ TV中継を考える[前編]
アナウンサーや解説者に責任をなすりつけるのは幼稚な議論だ!
スポーツジャーナリスト
(元NHK)島村俊治
VS
フリーアナウンサー
(元日本テレビ)志生野温夫
 トーナメントのテレビ中継といっても民放とNHKではかなり性格の違いがあり、それぞれ賛否両論ですが、スポーツアナウンサーの大先輩のお二人に、それぞれのご出身の立場も踏まえて語り合ってほしいのですが・・・。
志生野  民放の立場からまず言いますと、NHKと民放は常にスポーツ中継の場で比較して論ぜられますが、常にNHKのほうが評価が高いですよね。これはゴルフや野球に限らずあらゆるスポーツでそうなのですが、その一つにアナウンサーの質もあります。
 僕も含めて、NHKのアナウンサーに対してどこかで民放のアナウンサーはコンプレックスを持っているんですね。それに民放というのは、様々な制約があります。特にそれを感じるのがゴルフ中継で、NHKのゴルフ中継には色々な意味で歯が立たないと、それは各局思っているはずです。
島村 そう、いきなり褒めないでくださいよ。
志生野 温夫
 「アナウンサーや解説がうるさいというけど実は映像の方が鐃舌なんです」
志生野  いや本音です。テレビの世界は映像が主体で、音声はそれに付随しているものという大きな感覚があります。アナウンサーの分担というものは映像を補足したりフォローすものだというのがみんなの基本的な認識です。でも民放のゴルフ中継で一番受ける批判は「しゃべりすぎでうるさい。画の邪魔をするな」なんですね。でもそれが出来るか出来ないかは、アナウンサーのゴルフに対する見識も必要になってくるんです。
 若いときは、何かしゃべっていないと不安だというのがあるし、黙っていいところと補足しなくちゃいけないところがわからないということがありますね。
 私だけ、先にしゃべっちゃいますけど、この『うるさい』ということに関しては、音声だけうるさいととらえている人が多いのですが、実は、民放というのは映像も饒舌なんです。落ち着いた画がない。カット数の多さ。もう何でも入れようとしますからね。それをフォローしていくのが大変なんですが、それが逆に解説者、アナウンサーがうるさいという一般的な印象を与えている部分もあるんです。
 その点、NHKの画は常に落ち着いています。だから島村さんたちも落ち着いて前後の状況も解説者に聞ける。うらやましいですよ。
島村 俊治
「VTR技術の進歩が生んだ 『擬似生』がスポーツ中継を変えてしまった」
島村  民放はCMで放送を断ち切られるから編集が必要になる。それに対してNHKは生放送が出来るといいますがVTRの技術が進んできて、僕らの言葉で『擬似生』って言うんですがコマーシャルのないNHKでも、多分100%のうち40%から半分ぐらいは擬似生で、生のようにしゃべっているんです。
 例えば、違うホールで優勝争いをしている選手が何人か、いた場合、そのショットやパットをVTR映像と挟んで繋ぐ。
 元々、アメリカの先進国がCMを挟むために開発した技術なんですけど、たぶん民放の場合は、生放送とうたっても、100%の画像のうちの70%は擬似生だと思います。
 ゴルフは野球やサッカーのように一つのフィールドで行われるスポーツじゃないので、VTRをどれだけ生かして全体の流れを見せていくか、という演出が必要になる。それはその時のディレクタ−の考え方一つなんです。
 志生野さんがおっしゃったようにまず「映像ありき」で、プロデューサーとディレクターが違ったら、まったくの別番組が何通りも作れるのがゴルフ中継なんです。彼らがどれだけゴルフに精通していて、ゴルフの真髄に迫るような勝負そのものを見せていくかが第一だと思っています。解説者やアナウンサー批判が真っ先に来るのは次元が低いと思いますよ。
志生野  いまも民放の場合、例えば午後4時から5時半までと決まっていて、1時間半の中で最後の18番を入れて・・・・と決まっています。その中で沢山の映像を入れるのが義務と考えているディレクターが多いんですね。そうすると解説者やアナウンサーの出番はもう一瞬一瞬でしかなくなる。それと、編集技術が進んできた分、どう編集するしか頭にないディレクターも多い。そういう人ほど、我々音声を軽く扱うんですね。
 あるトーナメントで、トップを走っていた選手がバーディーパットに入ろうとしたとき、その前のホールで1打差で追っていた選手がバーディを決めて大歓声が起き、その選手が仕切り直しをしたんです。それで、解説者が、そのことに触れたらディレクターが「馬鹿ッ、その話は後だ!」と怒ったんです。ディレクターにしてみれば、その画は後で入れるつもりだったんですね。
 僕らとしては音声の情報としては抜群に面白いと思ったし、怒られるスジじゃないと思った。現場レポーターにしても、目の前で見たことをうっかりすぐにしゃべれないという状況で、編集を優先するがためのウソがどんどんひどくなっています。
島村  NHKは生中継が原則ですけど、やはり擬似生は最小限にとどめて、生でやるべきですよね。それとゴルフは本来4日間の競技なのだから、本当は予選から放送すべきだと思うんです。
 地上波が駄目なら、民放も今、BSの時代になってきたから、せめてBSで午後1時から5時ぐらいまで生で放送してほしい。土日の2時間半とか2時間の放送というのは野球で言ったらもう7回ぐらいになってから放送しているようなものですよ。
志生野  20代の仕事の中で、この連載が一番面白かったです。最初は奥野さんと私で連載していたのですが、その後、企画の切り口を変えまして、半熟隊のメンバーが増えていったんです。
 で、そのとき一緒だった人たちは今、さまざまな形で水泳界で活躍している。そういう意味では、素晴らしい人材を輩出した連載だったんじゃないかと(笑)
島村  NHKは生中継が原則ですけど、やはり擬似生は最小限にとどめて、生でやるべきですよね。それとゴルフは本来4日間の競技なのだから、本当は予選から放送すべきだと思うです。
 地上波が駄目なら、民放も今、BSの時代になってきたから、せめてBSで午後1時から5時ぐらいまで生で放送してほしい。土日の2時間30分とか2時間の放送というのは野球で言ったらもう7回ぐらいになってから放送しているようなものですよ。
志生野  先ほど言ったアナウンサーとディレクターのケンカも、本質から外れた今の民放のゴルフ中継の矛盾をいっぱい抱えた現場の軋轢から生まれてくるんですよね。
 プロ野球からして、そうなんですよ今、CSでプロ野球中継をやっていまして、放送開始の本当に10分前からじっくり解説者と話をして、それで当日のスタメンが出て、スタメンについて話して、それで9回まで。序盤、中盤、終盤を見て、それで試合が終わった後のまた総評があって、それで勝利投手から敗戦投手からヒットの数まで言ってきちっと終わる。
 僕、この年になって初めてそういう野球中継を経験して、ああこれがアメリカでやっている野球中継なんだと思いました。
 僕は、日本テレビ時代、午後7時から「こんばんわ」で始まって「大変残念ですが」というのを9時前にやって終わっていて、あの頃は、それが野球中継だと思っていました。でも放映前の序盤に面白いシーンがあることが多いし「さよなら」の後に大きな山が来ることも多い。それを放送できない不満とこれでいいのかなという疑問はずっと抱えていました。
 今、ようやく民放もそれを解消しようという動きが出始めて、日本テレビも最後まで放送できない巨人戦をNHKに何試合か提供するような時代になってきた。ワールドカップなどは、45分、45分で、その間はCMは入れられないし、入れなかった。やろうと思えば出来るんです。
島村 そう、その気になれば、生放送が出来るんですよ、民放でも。
志生野  ゴルフ中継でも、アナウンサーとディレクターが「しゃべりすぎだ」「カット数を控えろ」という言い争いをしているだけの幼稚な環境のままでいいのかということを一番言いたいです。
 昔、僕が、日本で初めてのゴルフ中継だった昭和32年のカナダカップのときはカメラをリヤカーに乗っけて1番から始めたんですよ、全部生で。
 アナウンサーもディレクターもゴルフを知らず、全て手探りで、今から見ればすべてが稚拙だったですけれど、でもゴルフというもの、ゴルフのプレーそのものを追っていたような気がします。
島村  あの頃は、スポーツ中継に限らずテレビというものがすべて生中継でしたからね。
志生野  野球中継も実は最初は生で最初から最後までやっていたんですよ。それしか放送するものがなかったですから。それが段々コマーシャルが増えてきて番組編成が複雑になってきて、今のスポ−ツ中継の民放の形が出来上がってしまったんですね。 

(次号につづく)


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