スイミングマガジン・「2004年11月号」掲載記事
Sportus Field Column −島村俊治の勝負を語る!−
◎新たなスタートに向けて
 アテネ五輪の日本水泳界は競泳で戦後最多の8個のメダル、シンクロの2つの銀をあわせて10個のメダル獲得の快挙を達成した。
 しかし、喜んでばかり入られない。スポーツの世界では勝ち続けることがいかに難しいか、過去の歴史をひも解けば一目瞭然である。
 幸いなことに前号でも書いたように、日本は豊かになった経済力と環境を背景に、選手強化は右肩上がりである。だが、ここで安心して一休みしようものなら、すぐ元の状態に戻ってしまうのだ。 
 目標を高く掲げることが国際競争力に勝つとするならば、まだ世界一になったわけではない。目指すは真の“水泳ニッポン”である。自由形短距離でメダルが取れたわけではないのだから、バランスからいえば、まだまだといえるだろう。
 来年の7月にはカナダ・モントリオールで世界選手権が開かれる。モントリオールは1976年のオリンピックで日本が惨敗を喫したところだ。モントリオール、ロサンゼルスの低迷から、今年復活したアテネまで、実に20年の歳月を要したのである。落ちるときは加速度的に下がるが。這い上がるには数倍のエネルギーと時間がかかるということだ。
 モントリオールでの世界選手権は、2008年北京五輪に向けてのスタートになる。現有戦力の一部は残るとしても、新しい多くの選手が経験を積み、また新しい“日本代表”が形成されることを願っている。
 メダルまでの道程は時間のかかるものだ。思いを込めて、その日一日のために戦うから感動を呼ぶのだ。そしてそのことは、アマチュアだからこそできるのだ。
 急に集まって1週間のトレーニングでアテネに臨んだ“最強ナガシマジャパン”の結果がすべてを物語っているといえるだろう。アマチュアの夢を砕き、プロの本職以外の仕事で銅メダルを取ったことを私は評価できない。競泳の4つの銅メダルの方が、比べものにならないほど価値があるのだ。
 プロにオリンピックはふさわしくないと私は確信している。要するに4年間をかけて“熟成”してほしいのだ。4年間は長いようで短い。
 
 オリンピックで活躍した選手たちに、一つ考えて行動してほしいことがある。皆さんの大好きなテレビは素晴らしいものだが、怖いものでもあるということだ。
 テレビを観ていると、毎日のようにオリンピックのメダリストが番組に登場する。いいものもあれば、「こんなところに出て何をしゃべっているんだ。タレントじゃない。スポーツ選手だということを忘れるな」といいたい場面に出くわす。
 選手をやめてタレントを目指すなら、どんな番組に出てもいいのだが、選手の場合は当然好ましくない番組もあるのだ。スポーツ、報道、教養系の番組で経験を語ることは、後に続く若い人の役に立ち、感心させられることがある。
 しかしバラエティーや、ふざけ過ぎた番組はやめたほうがいい。クイズ番組で賞金を稼いだ金メダリストを観ていて、私はがっかりした。放送の世界はいろいろな番組がある。いいものを観て、いいものを選ぶことが大事なのだ。
 若い選手たちは、いい気になりがちだ。そこのところのけじめがつけられないと、「何をやってもいい」と錯覚してしまう。
 メダリストやオリンピック選手がいつまでも“有名人”と思い込み、道を誤ってしまった例はたくさんある。指導者や関係者の皆さんも、勘違いさせないような配慮をぜひ行ってほしい。
 体操のメダリストが私生活を暴露された記事を、私は悲しい思いで読んだ。タレントとして仕事をしているのだから、暴露されるのはいたし方ないかもしれない。それにしても、面白おかしく書かれた記事を見ると、やりきれない気持ちになるのだ。
 良いときには持ち上げて、何かあれば落とすのも、マスコミなのです。だから、心してマスコミと、ときにはうまく、ときには用心して付き合ってほしいのです。


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