スイミングマガジン・「2008年1月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(1月号)
◎ 第30回 「他人事ではない」

他人事ではない
 ラグビーシーズンの始まった11月の初め、衝撃的な事件が発覚した。関東学院大学のラグビー部員2人が大麻取締り法違反で逮捕されたというのだ。報道によると、2人の3年生は「自分たちが吸うために、今年の夏ごろから大麻を栽培していた」と、容疑を認めたというではないか。
 大麻はアサ科の植物で吸うと、幸せ感や高揚感に浸れるのだそうだ。2人はラグビー部が借り上げていたマンションに住み、押入れに裸電球を吊るし大麻を16本も栽培し、吸引パイプも使っていたというから、間違いなく確信犯ということになる。繁華街を歩いていて、声をかけられ「魔がさして」買ってしまい、面白半分に吸ってみたという状態ではない。大学生の、しかもリーグ戦に出場していた選手だ。どうして、世の中のことがわからないのだろう。スポーツの選手はたとえ若くても、マスコミに報道されるようになれば「公人」になる。テレビに映り、新聞に書かれるということは、何かあれば人並み以上に叩かれるのだ。
 関東学院大学ラグビー部は新興勢力として、大学ラグビー界に波乱を起こし早稲田、明治に次ぐ6回の大学選手権の優勝校である。現監督の春口広さんが30年以上前に就任し、一から始めて強豪ティームにのし上げるまでの辛苦はいかばかりのものであったろう。この事件の直前に、私はNHKの番組をたまたま見ていて「人生の歩き方、雑草がつかんだ日本一」というタイトルの春口監督のラグビー人生と選手の指導法に感心して見入っていたのだった。それなのに、この事件は一体全体なんと説明したらいいのだろう。自信満々で語る春口さんに、私は「いいきになっていないかなあ」と失礼ながらちょっと感じたりもしていたのだが、個人的に私はひげ面が嫌いである。ひげは権威面の象徴のように私には見えるのだ。あるいは、弱さ、恥ずかしさを隠そうとするのかもしれない。謝罪時にひげをそってきたのはどうゆうことなのだろう。ラグビーをやりたいという学生の願いを受け入れ、多くの部員を抱えていたと聞く。その素晴らしい想いも、150人の部員一人ひとりに目の行き届いた指導が出来ていたのだろうか。この事件は社会性の教え、驕り、細やかな指導について考えさせられるのだ。私は、国士舘大学の大学院で客員教授を勤めており、集中講義を行っている。以前は毎週、講師として講義をしていた。その時に一番感じたことは、大学生の社会性の欠如ということだった。あえて、この大麻事件をとりあげたのは、スイミングの指導者の皆さんにスイマーたちの「社会性」について、もう一度、しっかり考えて欲しいと思ったからなのです。これは、決して関東学院大学や、ラグビー部だけの問題、他人事ではないのです。

ロサンゼルス五輪の水泳でもあったこと
 忘れていることを、いまさらという人もいるでしょう。1984のロサンゼルス五輪で、私は競泳の全種目を予選から決勝までしゃべりました。日本は惜しくもメダルがありませんでしたが、私は喋り切った満足感がありました。ところが、日本に帰ってから、日本選手が大麻を吸っていたことが発覚したのです。五輪の期間中は、まったく判りませんでした。勿論、現地では医事の専門家が調べていたのですが、反応は出ませんでした。ところが、秋も深まった11月の国体のときに、大麻を持ち帰った選手が、恐らくはお面白半分だったのでしょう、また大麻を吸引したのです。これが発覚したのは、なんと当事、大事件だった「森永」関連の警察の検問に、たまたま大麻を吸っていた五輪代表選手が車の検問で捕まり、発覚したのでした。ロサンゼルスの五輪のとき、声を掛けられ面白がってやってしまったようです。若いときにはよくあることです。隠れてタバコを吸ったり、酒を飲んだり、私もやりました。でも大麻は魔がさしたとはいえ、許されないことでした。いまは、普通に生活している彼らが、当時どれだけ後悔し苦しんだか想像できるでしょう。この件で、水連会長と強化委員長は辞任したはずです。いまさら、思い出すのは酷かも知れません。でも「水泳界では、ラグビーのようなことはない」と言い切れるものではないのです。
 学生や子供たちに後悔させることのないよう、指導者の皆さん、「社会性」を日々、話してください。来年はオリンピックイヤー、ですから、尚のことでしょう。



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