スイミングマガジン・「2009年06月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(06月号)
◎ 日本選手権のプールサイドで

 □古橋さんの記念プールで日本新ラッシュ

 「フジヤマのトビウオ」と言われた古橋広之進名誉会長の出身地・浜松市に記念プールが完成し、そのこけら落としの大会・日本選手権が開かれた。「何としてでも行かねばならぬ」と始まったプロ野球の放送の合間をかいくぐり浜松へ車を飛ばした。遠州灘に面した砂浜と松林の前、古橋さんの生まれ故郷の雄踏町のすぐ近くだ。エコに配慮し、科学技術も整備、真っ白な天井も広々と感じられ、選手への心遣いが嬉しいプールだ。設計にあたっては名誉会長も積極的に意見や提案をされたと聞く。古橋さんの穏やかな表情に満足感が感じられ、ほっとした。環境は万全、話題の水着も国内メーカーの切磋琢磨の研究でスピード社なにするものぞ。となると「日本記録ラッシュ」になるだろうと、予想はしていたが、なんと二十個の日本新記録が誕生した。私が水泳アナウンサーとして約三十五年間マイクを握っていたが、「ニッポン新記録っ」のアナウンスを叫んだ数は恐らくこの四日間の二十個あったかどうかだろう。

 私が大会の期間中に一番大事にしていた時間は、予選と決勝の間の選手の練習のときだった。指導しているコーチと雑談をしたり、時折まじめにレースや選手の状態を聞き、それを本番の放送でちょっと出だけすのだ。昔と同じようにセントラルの鈴木陽二コーチが嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。まずはいつもの挨拶がわり「ゴルフ、どう」「クラブのシングルになりましたよ」「選手が伸びないわけだ。自分だけうまくなっている」などなど。平井コーチとも挨拶、「北島君に会いました。いい仕事をして下さいねといっておきましたが」「よろしくおねがいします」と丁重な答え。北島選手?のこれからに私は注目し、期待を寄せている。金メダリストの肩書は一生背負っていくわけだが、そればかりを頼りにせず、りっぱな人生を、いい仕事をしてほしいのだ。

 岩崎恭子ちゃんにお祝いを述べた。「電話、ありがとうございました。嬉しかったです」鈴木大地先生も忙しそうだった「水連の理事になってよかった。喜んでるよ。若い人が入っていくことが大事だから。本間三和子さんもなったしね」「雑事も多くて大変なんですよ。教えるのに手一杯ですから」といいつつ、大地先生張り切っている。昔、しゃべった選手たちがいい仕事をして幸せそうな姿に出会うのは、これぞスポーツアナウンサーの本懐といえそうだ。「いくらプロレスが好きだからと言って顔と体つきまでまねることはないだろう。」「島村さんに話したいことが山ほどあるんですよ」と野口智博コーチ兼解説者。大学のコーチがすっかり板に付いた、こちらもやや太めの奥野景介コーチ。「おおい、糸井君、苦労してるんだ」「そうなんですよ。高校生に高い水着を買わせるのは大変です」と背泳ぎの糸井統。地元にかえり岐阜商業高校の先生をしている。彼の五輪の四着は私がしゃべった中でも思い出深い、そして悔しい、素晴らしい四位だった。「髪が薄くなるほど苦労してるんだ」体もまだ逆三角型、髪もふさふさと真っ黒な高橋繁浩コーチは相変わらず若々しい。「悩みがないんじゃないのか。でも選手は育ってきたね」「身体は鍛えてます。いまでも泳ぎますし、スキーの指導にも行きますから」元気で若くて快活な高橋コーチ。昔のままだ。「ロス五輪以来、泳いだことはありません」とのたまうのは、「元祖怪童」の緒方茂生。「ここは夏場所じないんだぞ」というと「これでも二人とも少しやせたんですよ」と杉本邦男。ミズノのタッグマッチコンビだ。かっての日本を代表する選手たちが水泳やスポーツにかかわる仕事をしているのは嬉しいことだ。「君たちに負けずに俺もまだまだ吠えまくるぞ」と独り言をいう私でした。それはそうと、二日間プールサイドにいたんだけど、某放送局の中継アナウンサーには会わなかったなあ。水泳アナウンサーの取材の第一はコーチと親しくなることです。

 記録の数々、その内容については本誌の記事に詳しくのることなのでここでは書きませんが、世界に近づいた好記録、世界歴代二位、三位、四位が出たのは世界選手権に向けて希望がもてます。選手の厳しい練習、水着の国内メーカーの開発の成果、プールの環境、そしてコーチングが記録の向上に繋がったことは間違いないことでしょう。ただ、安心はできません。これから各国で行われる世界選手権へ向けての選考会で、おそらく数多くの大記録が誕生するであろうことも想定しておかねばならないでしょう。

 ところで、浜松からのかえりは浜松名物「うな丼」を味わって、二十個の日本新記録とともに、満足、いや満腹でした。



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