スイミングマガジン・「2011年03月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(03月号)
◎ 縁(えにし)を大切に

 プロ野球のキャンプが始まる前だといのに、日本ハムファイターズのドラフト一位、斎藤祐樹投手のフィーバーぶりはどう表現したらいいのだろう。今までにも甲子園のヒーローてとして騒がれた原辰徳、江川卓、松坂大輔らが思い出されるのだが、斎藤祐ちゃんのケースはそれとも違うような状況だ。日本ハムのファームの練習場・鎌ヶ谷が祐ちゃんの自主トレ参加で、すっかり全国的にも知られる地名になってしまった。グッズの売れ行きを始めとして交通機関などの経済効果、何よりも若い女性だけでなく、野球にさほど関心はないだろうと思われる「おばさん」たちのハートをつかんでしまったルーキーは、過去の選手に比べても最高の「高感度ナンバーワン」といえるだろう。ルックスや大学までの実績、そのリーダーシップぶり、受け答えの素晴らしさ、球界を代表する先輩エース・ダルビッシュをして「僕とは人間の質が違います」と言わせてしまった斎藤祐樹投手、これからキャンプ、オープン戦、開幕と一体どんな「社会現象」になるのか、期待というより、心配さえしてしまうほどである。水泳と野球は違うのだが、人として、また注目を集めるスポーツ選手としての在り方に変わりはない。チームメイト、監督コーチ、ファン、世の中やマスコミに対して、斎藤選手がこれからどう対応していくのか、また参考になることはあるのか、ぜひ興味をもって見て欲しいのだ。恐らく、私はシーズンに入っても、斎藤投手の成績だけでなく、オフグラウンドの在り方も、しつかり見つめ、ゴルフ仲間の梨田監督に密着しようと思っている。斎藤投手の入団会見の夜、梨田さんと会食をしたのだが、監督がべた惚れしていて、大学生最後のサインを貰ってきて、みんなに披露したほどだった。

 縁とは不思議なものだ。日本ハムの球団代表が斎藤祐ちゃんを籤で引き当てたことから斎藤投手のプロとしての運命がスタートした。縁をたいせつに思うかどうかで豊かな人間関係が結ばれて行くように思う。スポーツアナウンサーは人と試合を見つめていくことなので、特に私は人に興味を持ち続けているのかもしれない。
オフシーズンなのでゆっくり年賀状を読み返しながら、整理をした。1200通近く頂いたので時間もかかる。十二月に賀状を書く時は、正直いって億劫になる。印刷したとはいえ、何か書き添えるから間に合わない。昨年は競技場へ向かう往復の電車の中でも書いたほどだった。

 出す時は苦痛だが、貰うと嬉しいものだ。最近はお子さんや孫に囲まれた写真付きが多く、幸せそうな様子が伝わってくる。新年の挨拶状という風習は、恐らく日本独特のものだと思うのだが、これも、家庭生活が幸せだったり、落ち着いていたり、仕事で張り切っているからこそ、近況を伝えられるのだろう。中には幸せの押し売りのようなものもあるし、私の年になると、定年後で悠々自適といいながらも、趣味だけの生活で時間を持て余している寂しさを覗かせるものもある。

 今年も水泳の関係者から三十通をこす賀状を頂いた。「縁」は有難いと心底思う。おめでたが四月の恭子ちゃん、四十人をこす美少女に囲まれたシンクロの鬼コーチ、
背泳ぎの糸井君も弾丸娘だった簗瀬かおりさんも「二世」の活躍に嬉しいパパとママの様子、中京大の高橋コーチは悲願のインカレ優勝の胴上げ写真付き、永田竜司君は新会社設立の決意、小粥コーチは鍼灸の開院、中村真衣ちゃんはアップに耐えられる水着の笑顔、結婚した雅美ちゃんは子犬の「ぷりん」でおめでたはないのか、塚崎も逸見も仕事が忙しそうて何より、杉本は腹ボテなのに奥さんが綺麗すぎ、昔、へんなコラムをスイマガに書いていた野口と奥野は息子と娘がおりこうそうで安心する。
林亨コーチも可愛い息子と一緒に幸せそう。若吉先生は水球ティームの選手たちと奥さん似でよかった息子にべったり、そして、スイマガ編集の桜間晶子さんはいつも私を褒め殺し、現役の頃は筑波大の平泳ぎでトップレベルの選手だった。石井宏先生新次さんも金子先生陽二さん大地君と紹介しきれずにごめんなさい。

 そして、極め付きは、娘の調布の家に行き、すぐ近くの蕎麦屋・増田屋に寄る。昔、なんだか覚えがあるなあと思いつつ「そうだ。ここは、あの背泳ぎの高橋英利君の店だ。スイマガの取材できたことがある」鈴木大地の前の日本を代表する背泳ぎの世界選手権のスイマー、妹清美さんも日本のトップのバタフライ選手だった。「覚えてますか、島村です」「えっ、懐かしいですね。いゃあ、変わらないですねぇ」五十歳も近づき、少し白いものがまじるが、昔しと変わらぬ明るい笑顔だ。「昔、よく喋ったなぁ、高橋くんの泳ぎを」

 今年も出会いと縁を大切にマイクに向かいたいものだ。



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