スイミングマガジン・「2012年02月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(02月号)
◎ 相応しい服装とは

 
 日本のプロ野球のスター達が次々とメジャーリーグに向かう。ダルビッシュ、和田、青木、中島、川崎ら、彼らが「あの雰囲気の中でプレーをしたい」と願うのは、私にはよくわかる。私も東京のスタジオでメジャーリーグの中継をやっていて、「メジャーはいいなぁ」と実感することが、よくあるからだ。

 そのメジャーリーグ機構が昨年の12月7日、興味深いニュースをAP通信で発してきた。それは、報道関係の服装規定に関して、記者らを含む委員会で纏めたガイドラインだった。メジャーリーグ機構が一方的に報道陣に押し付けたものではなく、記者らを含む委員会で話し合った上での「報道のマナー」についてである。それによると、「シースルーやミニスカートなど派手な服装―膝上10センチのスカートや短パンの禁止。わざと穴を開けた破れたジーンズの禁止」である。違反者には何らかの措置を獲る予定だそうな。取材者に対して服装の規定―ドレスコードが発せられたことは、私の経験では、今までになかった。新聞社、放送局、雑誌社は暗黙の了解や先輩の指導で取材現場に臨んできている。メジャーリーグ機構でこのような服装に関するガイドラインが出たことは、見るに見かねた、スポーツを取材する現場を逸脱するような姿に我慢できなくなったからなのだろう。

 私も48年取材活動を続けてきて、最近は「違和感」を感じることが多くなってきた。勿論、服装は季節、報道の職種、競技種目、プロ、アマによっても、かなりの違いがあるはずだ。真夏、真冬、インドア、アウトドアー、記者、カメラマン、レポーター、解説者、アナウンサー、プロデューサー、ディレクターと様々異なる。この場合、技術関係は報道人の中には入れてはいない。ただ、一つ言えること、間違って欲しくないことは、スポーツ競技会は見る人は兎も角、やる人、伝える人は真剣勝負の場であるということだ。選手はユニフォーム、競技に関わる方はブレザーなどの姿がほとんどである。つまり、スポーツの競技会はフォーマルなものなのだ。

 取材の時、私はジーンズは履かない。ジーンズは大好きだが遊びの時のみ、現場は汚れたりするので綿パンが多い。Tシャツは着ない。必ず襟付きのシャツにする。あとは、競技やその日の天候にあわせている。ネクタイは放送以外は締めない。要するにスポーティで見苦しくなければいいはずだ。私にも苦い思い出がある。アメリカのゴルフツアーの放送をしていた時のことだ。当時も放送や取材の時にジーパンをはくことはなかったのだが、その日、ニューヨークから飛行機で現地入りしてそのままゴルフ場に入るので「まあいいか」とついついジーンズでコースに行った。青木功にさん会って「久しぶりです。よろしく」と声をかけた。笑顔で答えた青木さんが、ジロッと視線を下におろしたように私には見えた。青木さんは何も言わなかったが、私には判った。「しまった。ここはゴルフ場で、私はカメラマンではない」

 以来、二度とジーンズでスポーツの現場に行ったことはない。昔、今阪神のコーチをしている片岡篤選手と甲子園のグランドで話をしていた。片岡選手が報道陣の方を見て、こう言った。「あのダラしない恰好は嫌ですねぇ。ここは僕らの闘いの場、真剣勝負の舞台なんですよ。あんな服装で同じグランドに入って欲しくないんです」このことを、今まで私は誰にも語ったことはない。ただ、グランドは、プールは、トラックは、コートは選手達の勝負の場だと片岡選手に教えて貰った。

 確かに、最近、プロ野球のグランドに行くと、女子アナやレポーターの中に、「なんだよ。その恰好は。選手の目を引くためかい」といいたくなるような服装にお目にかかる。NHKのサンデースポーツも女子アナのミニスカートのアップから始まる。「色気でスポーツを売るのか、NHKよ」アメリカ大リーグ機構がドレスコードまで発表したのも「致し方ないのかなあ」と私は思うし、「さすが大リーグ、日本では出来ないだろうなあ」
 ところで、水泳の取材者について、スイマーの皆さんはどう見ていますか。プールサイドは濡れたりするから、ジーンズも襟なしのティシャツもOKかな。勿論、大会の時と練習の取材だと、若干の違いはありますね。要はその場に相応しい恰好、戦いの場を意識すれば、身を引き締めて選手と対面するということではないのでしょうか。



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