WOWOW US OPEN「2002年8月31日号」掲載記事
 スポーツは人生そのものだ。9月11日の重さを受け止めた開会式の後を受けて初日のナイトセッションに登場したのは世界1位のセレナ・ウイリアムズとコリーナ・モラリ ウだった。そして、この夜ばかりは主役はモラリウ。
 2万観衆も放送席の私も彼女の復帰を不安と祈りに似た思いで見つめていた。「1ゲームでも取れるのだろうか」彼女は去年の5月骨髄性白血病に犯され、死に直面し病と闘ってきた。去年の全米オープンと同時テロの時はニューヨークの病院にいた。セレナと対戦した彼女は髪が抜け、やせ細ったベッドの中のモラリウではなかった。確実な打球、得意のバックのスライスでセレナを悩ませ光る汗、輝く瞳にプロとしての復活が約束されていた。6−2 6−3と数字の上では差がついたが、セレナからなんと8回もブレイクのチャンスを得た。
 2回しかブレイクを許さなかったのは、さすがセレナだ。試合後のインタビューで「色々な思いの試合だった。ここまで皆に支えられた。一年前はここに戻れるとは思えなかった。」冷静な彼女だがこの言葉時は涙をこらえた。「今も毎日投薬を続けています。復帰の場に大きな舞台を与えてもらい興奮しました。」この日の記者会見はスター達の勝利のインタビューより彼女の会見が一番長く注目を集めた。
 スポーツの素晴らしさは、優勝や相手に勝つこと以上に怪我や病も含めて「内なる弱い己を如何に克服するか」だろう。この夜は放送席でハッピーな気分になった「モラリウさん、君は多くの人に勇気を与えたと思うよ 日本に帰ったら寝たきりの介護が続く母に話そうと思う 君の人生に乾杯だ」


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