Column No.13 (2003/01/30デイリースポーツ掲載分)
◎明日はないと思え

 全豪オープンテニスから帰ると、すぐに鹿児島・宮崎へ出かけた。テニスのみやげ話をすると、「アガシは大嫌いなんですよ。長髪、派手な衣装、わがまま勝手な振る舞い、いい気になるな」と反論する人がいた。それ以来、テニスに興味を失ったし、見向きもしなくなった、という。「今のアガシはまったく正反対の選手になっているんですよ。日本の武道の道を求める姿と似ていますよ」
 32歳8ヶ月のアガシは今大会まったく危なげなく「横綱相撲」のような完璧なテニスで全豪4回目の優勝を飾った。決勝のドイツ・シュットラー戦は、わずか23ゲーム、大会タイ記録となるあっさりしたものだった。
 アガシは14日間の長丁場を戦う上で展開にも恵まれたのだ。優勝候補筆頭のヒューイットがモロッコの伏兵エルアノゥイに逆転負け、そのエルアノゥイはアメリカ・期待の若者、ロディックと4大大会最多タイの83ゲームを戦い惜敗、勝ったロディックも歴史に残る大激戦で右手首を痛め、準決勝のシュトラー戦は実力を出し切れずに敗れた。テニスファンのほとんどはアガシ=ロディック戦を期待していたはずだが、筋書き通りにはいかないものだ。結局、あっさりした決勝戦になってしまったのは、史上希に見る準々決勝がキイを握ってしまったのだろう。
 だからといって、アガシの優勝の価値が下がるわけではない。「いつ、最後の時を迎えるか誰にもわからない。だから、今日はめったにない日なのだ」と優勝インタビューで語った言葉を、すべての競技者はかみ締めてほしいのだ。
 昔の傍若無人のアガシだったらこんな味わいのある心境を吐露することはないだろう。大会中に「もし今大会で優勝したら、妻のグラフとコンビを組んで混合に出てもいい」と言っていたが、アガシにとっては、優勝するよりグラフを説得することの方が、ひょっとすると難しいかもしれない。でも、ファンが夢のコンビを待っているのは間違いない。
 世界ツアーのテニス、今週は女子のパンパシフィックが東京で開かれている。



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