Column No.75 (2004/04/21デイリースポーツ掲載分)
◎陰の力、指導者を讃える


 久しぶりに、陸上競技の高野進さんにお会いした。現役時代は短距離のトップランナーとして活躍、現在は東海大学陸上部のコーチとして多くの優れたランナーを育てている。
 高野さんが活躍した五輪はバルセロナだった。日本の陸上界の400mで五輪決勝に進んだ選手は誰もいなかった。400mはいろいろある陸上競技の種目の中でも苦しい種目といわれている。
バルセロナの五輪の準決勝、4着に入れば決勝に残れる。高野は実力的に4番か5番の微妙なところだった。このレースの実況をしていた私は、初めて自分の禁を破って「がんばれ」とアナウンスした。私は誰もが口にする「日本がんばれ」は絶対にいわないのをモットーにしてきた。「前畑がんばれ」は昔の名アナウンスだし、無闇やたらに「がんばれ」を連呼する現代の絶叫型アナウンサーに私は批判的である。もちろん、日本人だから心の中ではがんばれと声援は送りたいのだ。しかし、私の金メダル実況の鈴木台地。岩崎恭子、清水宏保、惜しくも銀の森下広一、野球の全日本など誰にも「頑張れ」とは言わなかった。ただ一度だけ高野進が苦しみ、悶える400mの直線に入り、4位以内が確定的になった時、私は意識して「高野がんばれ、決勝は間違いない」とアナウンスした。もしメダルに関わるシーンだったら言わなかっただろう。
 メダル、メダルとバカ騒ぎするマスコミに私は批判的だからである。五輪で「ベストを尽くす」ことをしっかり見守りたいからなのだ。
 高野さんに会ったのは、先週行われたミズノが表彰する優れた指導者を讃えるスポーツメントール賞の授賞式で私は今年も司会を担当していた。高野さんの他にもレスリングの女子コーチ木名瀬重夫さん、柔道のコーチ大追明神さん、島根県ソフトボール協会の菊川久美子さんら11人が表彰された。この賞の素晴らしさは選手にスポットを当てるのではなく指導者を表彰するところにある。アテネ五輪での指導者たちの育成法にも注目をしていただきたい。司会席からもう一度だけ言ってしまった「頑張れ高野、頑張れ指導者たち」



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