Column No.111 (2005/02/02デイリースポーツ掲載分)
◎ 格闘技のテニス

放送席より

 100周年記念の全豪オープンテニスは近年にない内容の濃い激闘が展開され最後まで盛り上がった。テニスはネットをはさんだ格闘技であり、「この1本をとる」ことが如何に難かしいか、なのである。
 男子はサフィンがヒューイットを、女子はセレナ・ウイリアムズがダベンポートを決勝で破って優勝を飾ったのだが、圧巻だったの男女ともに準決勝戦だった。今大会の焦点は無敵の王者フェデラーを誰が破るかだったのだが、準決勝はのサフイン、フェデラー戦は語りつがれるほどの名勝負、スーパーショットの連続だった。心技体と完璧な状態で二連覇を狙うフェデラーに対し、豪打のサフィンが冷静と忍耐で真っ向勝負を挑んだ。まさにネットを挟んだ格闘技といえる戦いだった。終盤、あと一本まで追い詰めたサフィンに対しフェデラーは動揺も見せず、冷静に対応する。悪童ぶりとラケットを叩き折るのがキャッチフレーズにすらなっているサフィンが今年は人が変わったように忍耐づよくボールを叩き続けた。もうパンツを下ろして抗議するような悪ふざけはしない。サフィンの強打が深く決まり、王者フェデラーがコートの隅に横転して勝負がついたが、サフィンはネットに身体を預け、フェデラーと健闘を讃えるために待ち続けた。素晴らしいシーンであり、最高の激闘だった。
 女子の準決勝、セレナ対シャラポワ戦も凄かった。「失うものはない」とかってのチャンピオン・セレナは若い人気のシャラポワに挑戦者としてぶつかった。シャラポワの勢いの前に、前半から劣勢だったセレナが2セット中盤から本来の自分を表現しはじめ追いついた。こうなると、パワーテニスの激突に加え、シャラポワの悲鳴、奇声がますますボリュームアップする。セレナの派手なガッツポーズとの組み合わせで場内は興奮のるつぼと化していた。それにしても、シャラポワのボールを追う執念はどこからくるのだろう。子供の頃、父とともに懐にわずか700ドルしか持たずにアメリカにわたったハングリーさを忘れてはないということなのだろうか。シャラポワは3度マッチポイントを握ってセレナを追い詰めた。しかし、そこからの僅か1ポイントが取れなかった。「この一球」は何のスポーツにせよ難しいものなのだ。試合内容ではシャラポワが優っていたが勝負には敗れた。セレナが耐えたということだろう。
 今週シャラポワは大好きな日本の大会にやってている。美しさだけでなく生い立ちからのハングリーと執念を見てあげて欲しいのだ。



--- copyright 2001-2004 New Voice Shimamura Pro ---
info@shimamura.ne.jp