Column No.148 (2005/10/19デイリースポーツ掲載分)
◎ ボビーの胴上げ

 最後まで息詰まる熱戦のプレーオフは千葉ロッテマリーンズの31年ぶりの優勝で幕を閉じた。内容のある僅差の試合で野球ファンを満足させたに違いない。
 ソフトバンクが連敗して後が無くなった第3戦の試合前、私は王監督のもとに近寄った。「王さん、私のツキをお分けしましょう」と右手を差し出した。私に運があるわけではないのだが、連敗で辛い王さんを激励したかったのだ。「この際、貰えるものなら何でも貰っとこう」と王さんは握手に応えた。試合を実況(スカパー)していた私は9回に4対0になったところで、おまじないも利かないと観念してロッテ優勝に向けてのコメントを喋りだした。ところが、そこからあの奇跡のような逆転劇が始まったのだ。翌日、私はプレイオフがもっと盛り上がって欲しいと願い、試合前、王監督に「また有るかもしれませんね」と手を差し出すと、「おう、おう、そうだそうだ」と笑顔で握り返してきた。
 ロッテファンに断っておくが、私はどちらのティームに応援や肩入れをしているわけではない。リードされているティームに頑張って貰いたいだけなのだ。最終戦、グランドでミーティングを終えた王監督が、明らかに私の方を目指して足早に歩いてきた。今度は王さんが先に手を出す。「お願いします」と笑顔、私は「3連勝、3連勝」と応えた。でも、内心「今日は違うかもしれないな。王さんから先に握手を求めてきた・・・」
 今度は三塁側に向かう。バレンタイン監督の通訳を務める中曽根俊さんに話しかけると、「今日は普通の状態になってますね。王手をかけてからは、どうしてもフワフワしたところがありました」彼は私がNHKにいた頃、大リーグやNBA中継の通訳をしていたので、ロッテに来てからも懇意にして貰っている。「バレンタインはアメリカで胴上げの経験はあるよねぇ」と聞くと、「そういわれてみると大リーグには胴上げという習慣は、確かないはずですねぇ。ボビーはリーグ優勝はメッツでしていますが、どうなんでしょう。確かめてみますよ」バレンタイン監督に聞いた答えは、3A時代にはあるが、大リーグでは胴上げはなかったそうだ。
 最終戦は球運がロッテにあったのだろう。逆転されたソフトバンクの反撃は際どいいい当たりが何本もあったのだが、ロッテの好守備に阻まれた。バレンタイン監督が選手を信頼して任せきったところに優勝の要因があった。スタンドのロッテファンが差し上げた「アイ・ビリーブ、私は信じる」はまさにバレンタインとファンの心だった。いい優勝だった。ソフトバンクに球運がなかっただけだ。優勝が決まってバレンタイン監督の胴上げはなかなか始まらなかった。「やっぱり、アメリカの習慣ではないんだな」と思いつつ、私は実況を続けていた。



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