■ Column No.226 (2007/05/22デイリースポーツ掲載分)
● 男は黙って勝負する

 「正直、恥ずかしかったです」先週の木曜日、東京ドームでの楽天戦で、日本ハムの田中幸雄が2千本安打を達成した際の答えである。
 日本ハムには去年までの新庄、今年の森本とパフォーマンでもファンの心を捉える選手がいる。宮崎県の都城高校出身の田中だが、今や全国的にもPRマンとしての売れっ子県知事・東国原さんも都城の出身だ。面白いことに、田中選手は、そのどちらとも対極にある。恥ずかしがりやで、無口で、出しゃばったり、啖呵を切るには程遠い人なのだ。見かけはムキムキの筋肉マン、「男だ、田中だ」と言いたくなるのだが、そんな態度はこれっぽっちも出さない。清原とも対極の人だろう。日本ハムに入団した頃、同姓同名の大型投手がいたので、彼のニックネームは「コユキ」だった。今思うと、「小雪」という女性の名前を連想するから、みかけは男っぽい田中選手だが、誰がつけたのか巧い発想だったと言えるだろう。
 高校時代、彼は春センバツで桑田、清原のPL学園と準決勝で対戦したが、延長戦で不運な落球で敗れた。その試合、私はインタビュアーだったのだが、インタビューした相手は桑田投手になった。決勝戦の実況は私だったので、田中幸雄選手とは「ニアミスの甲子園」だった。
プロ野球選手会とのゴルフコンペで一緒にラウンドしたことがある。「恐ろしく飛ぶ」などというありふれた表現は当てはまらない。ボールがどこへ行ったのか見えないほど、タイガーと廻らせて見たいほど異常な飛距離だった。プロ野球選手で誰が一番飛ぶという話になると、間違いなく田中幸雄の名前は出てくる。
 今年のキャンプから2千本安打は話題になっていたのだが、宮崎に住む私の知人から電話があった。「田中選手が宮崎出身だということが、あまり知られていないように思うので、ぜひ達成したら、宮崎名産のマンゴウなど農産物を贈りたいのだが、コンタクトをとってもらえないでしょうか」沖縄・名護のキャンプで田中選手にその旨を話すと、「とても嬉しいです。でも、私の性格から、あまり派手に騒がれたくないのです。気持ちは有難くお受けします。どうしてもと言われるなら、球団あてに、選手全員に喜んでもらえるようにして下さい」
 2千本達成のあと、宮崎の知人は福岡ヤフードームの試合観戦にでかけ、「球団で受け取ってくれました。感激しました」と興奮して電話をしてきたのだった。
 2千本安打はプロ野球史上35人目、イチロー、松井の日米通算を入れると、37人になる。その中で田中幸雄は実働22年目という最長記録になる。強肩、強打で大型ショートの打点王、無失策記録の主砲は、守備位置も転々、数々の怪我という苦難を乗り越え、いまも自然体で静かに試合に臨んでいる。
 プロ野球は、今日から、いよいよ、交流戦がスタートする。



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