■ Column No.230 (2007/06/19デイリースポーツ掲載分)
● 祐ちゃんの早稲田?

 「彼には強運がついてるね。何かがあるんだろうね。勿論、ピッチングは、あの落ちるボールがいいしね。僕らの頃とは比較になりませんよ。あれだけ騒がれて、自然に振舞えるんだから、たいしたものだね」早稲田実業の先輩、ソフトバンクの王監督はこう評した。
 後輩が早稲田に敗れて準優勝だった東海大学の先輩・巨人の原監督は「久しぶりに大学野球に注目が集まったのは祐ちゃんのお陰で、よかったんじゃないですか。僕の頃も1年で準優勝、4回出たけど、その後は確か江川さんに負けたんじゃなかったかな。それでもこんなに騒がれませんでしたよ。結果的には、大学野球に興味を持ってもらえるのはいいことです」
 33年ぶりに早稲田は大学選手権に優勝した。しかも、斉藤投手は準決勝、決勝と連投、1年生でMVP獲得と祐ちゃんフィーバーに相応しい大活躍だった。私も早稲田の卒業生だし、子供の頃からワセダが好きで高校から付属に入り、純白のユニフォーム・えび茶のストッキングに憧れただけに「嬉しい」ことに間違いはない。ただ、スポーツジャーナリズムに身をおく「仕事人間」がついつい、顔を出してしまうのだ。
 そう、実は手放しで喜んでいるわけではないのだ。それは、テレビのキャスターやスポーツニュースの女子アナどもの、はしゃぎっぷりに壁壁しているからだ。たまらなく嫌なのは「祐ちゃんの早稲田大学が」「ハンカチ王子の早稲田が」という言い方である。スポーツの世界はどんな競技でも、スターがいることで注目を集め、人気を呼ぶ。それは大歓迎だ。ただ、ゴルフやテニス、大相撲のような個人スポーツと野球、サッカー、バスケット、ラグビーのようなティームスポーツでは当然違いがあるはずだ。確かにスターのいるティームにマスコミは勝たせたくなるし、ファンもそう望むだろう。ただ、ファンはともかく、マスコミは「ティーム」に対する配慮が必要だ。早稲田の優勝は斉藤投手の力が大きかったのは確かだが、「祐ちゃんの早稲田」はないだろう。優れたメンバーが揃っているのに、他の選手の名前はさっぱり出てこないのだ。この祐ちゃんフィーバーを先輩の主力選手や、特に力を持っている投手陣が、どう思っているのか、本心は聞けるはずはないとしても、知りたくなるのは私だけではないだろう。でも、このことについては、聡明な斉藤投手は、野球部内ではきっちり対応しているようだ。「奢らずに」と語るご両親の素晴らしい躾が想像できるのだ。問題は伝える側のマスコミの配慮のなさに嫌気がさすのだ。「祐ちゃんの早稲田」ではない。先輩のプロ野球選手の談話、これが一番的確だ。「「すごいですね。強いティームということです」そう、野球はティームスポーツなのだ。



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