■ Column No.238 (2007/08/14デイリースポーツ掲載分)
● 甲子園の夏に想う

 テレビのチャンネルを探っていたら、丁度、中日、巨人戦のサヨナラの場面だった。延長12回、1死1、2塁、代打に4年目で期待されている堂上剛裕が告げられるところだった。その時、テレビカメラは、ベンチを出てネット裏近くにいる堂上が大ベテランの立浪和義からアドバイスを受けているシーンを克明に捉えていた。ミスタードラゴンズの立浪も去年からは控えに回り代打要員だった。恐らく、葛藤はあっただろうが、立浪は腐ることも無く、ティームのために尽くしている姿に私は感心していたのだ。
 立浪はわざわざベンチを出て、堂上のもとへ行き、笑顔を交えた柔らかい表情で堂上に話しをしていた。「登板したジャンの投球内容を教えているのだろう」と私は思った。堂上はジャンとは初対戦のはずだ。「アイツらしいなあ。いつもティームで戦おうとしている。昔っからだ」
 その直後、ジャンのチェンジアップを捉えた堂上の一打はライナーとなってライトスタンドに突き刺さった。代打サヨナラスリーラン。ヒーロー堂上はインタビュー台で「立浪さんに球種を教えて貰いました」と素直に答えている。
 今、甲子園では高校野球の熱戦が続いている。今から、21年前、立浪主将率いるPL学園は春、夏連覇を達成した。この年のPLは野村、橋本、岩崎の三投手リレー、立浪、片岡、深瀬の打線、ヤクルトの宮本も一年下にいて守りの選手だった。
名将といわれた当時の中村監督に「監督から見て、一番のティームは歴代でどのティームですか」と尋ねたことがある。「それは、立浪のキャプテンシーのティームですね。投、攻、守に纏まっていました。決勝戦の朝、彼らが練習グラウンドの草むしりをしてバケツを下げて寮に戻ってくる姿を見て、このティームは出来上がった。今日の決勝戦は勝てるかもしれない、と嬉しかったことを覚えています」
 私は「桑田、清原のティームが一番」と答えるのかと想像していたのだが、言われてみると納得した。橋本、片岡は解説者、野村はコーチになったが、立浪はまだ現役をつづけている。立浪といい、宮本といい、ティームプレーをモットーにティームをリードする「あり方」を彼らは、あの熱い想いの高校野球からやり続けているのだろう。
 野球の原点は高校野球にあると言われます。野球の技術だけでない、選手としての生き方、心のあり方を指導者は選手に伝えて欲しいのです。昔と変わらぬ立浪の姿に、あの決勝戦を喋った私には、殊のほか、嬉しく思われるのでした。



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