■ Column No.243 (2007/09/25デイリースポーツ掲載分)
● ゴールイン

 1984年のロサンゼルスオリンピックでスイスのガブリエル・アンデルセンが意識朦朧となりながらフラフラでゴールインしたシーンを年輩の方は覚えているかもしれない。実況していた私は「人生のゴールインは色々あるのだ。マラソンで大切なことは勝った負けた以上に死力を尽くしてゴールインすることだ。ゴールにたどり着いた者は全て勝者なのだ」と思いながら必死に涙を堪えながら伝えていた。欽ちゃんのロングマラソンもテレビのやり過ぎと批判しつつも、当の欽ちゃんの痛々しいまでの頑張りを見させられると、視聴者は「頑張れ、頑張れ」と応援したはずだ。
 私のこのコラムも今日が最終回になる。2001年の7月にスタートした。始めの半年位はワープロを使い、印刷しファックスで送っていた。「文章を書くのはパソコンでは駄目、手書きに近いせめてワープロ」などと勝手な理屈を言っていたが「要するに、機械音痴のアナログ派、時代遅れ」だったに過ぎない。やっと、パソコンのメールをマスターして「やっぱりこれに限る」とキーをたたき続けてきた。尤も締め切りに苦しんだことはしょっちゅうで、始めのころは書き終わりメールを送ると、翌日からネタを決めるのに苦渋したものだった。また、海外の中継が多いので、時差に気をつけないと間に合わなくなる。二日ほど早めに書くと競技の結果を待たずに書くこともあり、一番新しい情報を織り込めず残念な思いもしたものだ。この終盤になってピンチがきた。8月23日から全米オープンテニスの中継でニューヨークに行っていたのだが、二日目に愛用のパソコンが壊れて単なる箱になってしまった。会社から借りたパソコンはロックがかかっていてインターネットとワードは出来るが、印刷とメールは出来ないようになっていた。コラムを書き上げ、スタッフのパソコンに移し、印刷し、ファックスで送るという厄介な方法を採らざるをえなかった。先週は男子の決勝を担当したので、締め切りに間に合わない。終に、初めての手書き、しかも、終わったばかりの放送席で殴り書きしファックスで送った。やっつけの文章は不満足のものだった。
 今日が最終回、帰国して新しく買ったパソコンで書き、メールする最初で最後の「マイクからの風景」になる。広島時代に一緒に仕事をした中川優氏の依頼ではじめたのだが、毎回彼が手を入れてくれた。私も必ず少し多めに書き、私の原文と手を入れて新聞に載る文と、どう違うか、どちらがいいのか、私なりに勝手に勝負したつもりだった。だから、これは中川さんとの二人三脚でもある。ただ、タイトルだけは、いつも違っていた。
 ご愛読に感謝、感謝して、「フラフラのゴールイン」。



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